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迫 共 | Sako Tomoya ​保育・社会福祉の研究と教育

迫 共インタビュー(学生の質問)

どうして保育者になったんですか?

――あなたはどんな先生ですか?

 

迫 大学の保育士・幼稚園教諭養成課程で保育や社会福祉の科目を教えています。保育園長の経験があり、保育カリキュラムや保育の人間関係について研究しています。いま教えているのは社会福祉の科目が多いです。
 

――どうして保育や社会福祉を教えることになったんですか?

迫 保育園の仕事は幼児教育・保育と社会福祉が重なっています。0~6歳の子ども達の生活習慣づくりの支援や、遊びを通して様々なことを身に着けてもらいます。子ども達の生活環境が十分でなかったりすると育ちに影響があります。子どもや保護者の生活環境の向上を図ろうとすると、教育だけでなく福祉の分野の知識や実践が必要になります。子どもと保護者の両方に毎日直接接するので、保育者が小さな変化に気づくこともよくあるんです。
 

――どうして保育者になったんですか?

 

迫 実家の仕事が学習塾経営から保育園運営に変化したのですが、それが僕の大学院修了と同じタイミングだったので、「手伝って」と言われたのがきっかけでした。
 

――保育の仕事はどうでしたか?

迫 子ども達の発達を間近で見られたのはとてもいい経験でした。0歳で入園して6歳で卒園するまで見ると、本当に何もできず泣くしかなかった子が、歩いたり話したり、一人で色々なことができるようになって、卒園のときは保護者の方たちと一緒に涙を流しました。でも職場では男性は一人だけだし、保護者のご要望も最後に引き受ける立場になって、しんどい思いも色々ありました。

 

――今はどんな研究をしているんですか?

 

迫 保育者の人たちはたいてい子ども達と接する現場が大好きなのですが、保育現場には不思議なルールが生まれることがあります。「いつも笑顔で声が大きい先生」がいいとか。おだやかで静かな先生が好きな子もいます。保育者も人間なので、感情の波は当然あります。現場の先生たちと不思議なルールについて「当事者研究」をしています。

「当事者研究」ってどういうものですか?

――「当事者研究」ってどういうものですか?

 

迫 北海道の「浦河べてるの家」という精神障害者の施設で生まれた会話の技法です。「私がいま、何に困っていて、どのような状態になっているのか(または、何をどのようにすると良くなるのか等)」を具体的に、一人称で語り、参加者にじっくり聴いてもらいます。参加者はアドバイスをせず、聴くことにとどまります。「何がどんな風に起こっているのか」を眺めていると、問題は解決しないのですが、問題視する状態から離れられることがあります。その状態を目指すものです。

 

――具体的にはどんなことをするんですか?

 

迫 例えば保育者Aさんが話題提供者で、担任している4歳児Bくんが悪ふざけをよくして、つい感情的に怒るパターンにはまっており、やめたいのにやめられないで悩んでいるとします。

「Bくんはどんな子?」「Aさんや周りの子とのやりとりはどんな感じ?」「Aさんは何がどんな風に腹立つと思うの?」…と徹底的に聴いていきます。

 

――それだけなんですか?

 

迫 はい。基本的には(笑)。でも人って、自分の話をじっくり聴かれ続けていると、「これが問題だ」と思っていたことについて客観的に見える瞬間がやってくるんです。これを当事者研究では「見つめるから眺めるへ」と呼んでいます。

Aさんは「Bくんの悪ふざけを何とかしないといけない!」と思いすぎて、感情がエスカレートしています。「わたし、気負いすぎてるな」と自分のことが見えると、ふと力が抜けます。それだけなので、問題である「Bくんの悪ふざけ」は無くならないのですが、問題視する状態から抜けることができます。

 

――それは「研究」なんですか?

 

迫 インタビュー調査とか文献を使う研究ではないです。ある人の現場で起こっていることを、皆でじっくり眺めることを「研究」と呼んでいます。一般的な研究としては、「幼児教育のカリキュラム形成史の研究」をしています。

 

――それはどんなことですか?

 

迫 ドイツのフレーベルがはじめた幼稚園が、1850年代にアメリカに移入されて20世紀転換期にかけて広まるのですが、その中で経験論的な幼児教育と科学的な幼児教育のつなひきが起こります。1920年代頃にかけて幼児教育のカリキュラムが作られるのですが、経験論と科学のどちらが主導権を取るのかという争いが起こります。でも特に音楽と遊戯の分野を見ると、そこでは現場実践の追求が中心となっていて、主導権争いをしていた人たちがお互いに賞賛しあっていたりします。理論の主導権争いと現場実践とのギャップについて資料を集めて考察しています。

 

――なんかマニアックですね。

 

迫 そうですね。今の日本の保育現場でも「幼稚園教育要領」等に書かれていることと、現場で行われていることにはギャップがあります。それは今になって始まったことではなくて、昔からあったことです。経験論と科学のどちらが優れているのかということも、古くて新しい問題です。

 

――どちらが優れているんですか?

 

迫 経験論と科学、どちらか100%ではなく、両方のバランスが必要です。例えば、統計とかで数値を示されると、つい異論を言えない気持になりませんか。しかし数値上はそうでも、人が感じたり行動したりすることは数値通りでないことも多いです。だから両方が必要なんです。常にいいバランスになっているか確認する必要もあります。

迫先生は学生からはどう思われているんですか?

――なるほど。ところで、迫先生は学生からはどう思われているんですか?

 

迫 学生にはあまり厳しく接していないので、甘い先生だと見られがちですね。社会福祉を教えることもあって、基本的に学生を見放さないように心がけています。基本的に怒らないので、気軽に何でも話せる先生と思われているようです。ゼミ紹介では「お父さんみたいな先生」と言われたこともあります。ちょっと恥ずかしいですが(笑)。

 

――そういうのはいいんですか?

 

迫 距離感が近くなりすぎると不適切な関係になりがちだと思いますので、気をつけています。「学生は甘えてくるもの」だと思いますし、ときには嘘をつかれていると思うこともあります。しっかり聴くようにしていますが、あまり流されず、巻き込まれないことを心がけています。これは「当事者研究」と通じることなんです。

 

――保育者を目指す学生には、どんな先生になって欲しいですか?

 

迫 一人ひとりの目の前の子どもを大切にできる先生になってほしいです。でもそのためには「自分は大切にされた」と思える経験が必要です。学生の中には、自分の子ども時代に不満がある人もいますが、子どもに向き合うまでに、あるいは働きながらでも「自分は大切」と感じられる経験を積んでほしいです。幼少期なら他の人から大切と扱われる必要がありますが、大学生の年齢なら、自分で自分を大切だと扱うこともできると思います。それが十分できていないと、子どもに甘える大人になってしまいます。それは保育者の振舞いではありません。

 

――迫先生は自分をどんな人だと思っていますか?

 

迫 あまり研究者とか教育者だとは思っていなくて、自分では芸術家みたいな人だと思っています。カッコつけている訳ではないですよ(笑)。物事の捉え方が直感的で独特なところがあるし、若いときは今よりもクセが強い雰囲気もあったようです。自分が思うことを他人に話してもうまく伝わらないことがあって、どうしたら伝わるのかなと言語化する努力をしていると、説明する力が身につきました。直感で捉えているものに理屈をつけて話している感じです。

 

――ゼミや卒業論文の指導はどんな感じにされていますか?

 

迫 僕は自分の態度を「積極的な無関心」と呼んでいます。学生の味方になりすぎたり、共感しすぎたりせず、フラットに関心を向けて、基本的に応援はしますが、成果物の良し悪しは本人しだいと思っています。学生本人がしたいこと、できることにそれぞれ取り組むことが大事だと思っていて、自分は援助者や媒介役だと思っています。たとえば卒業論文の作成に向けて、いろんなアイデアやヒントは出しますが、何をどう研究するのかは、割と自由にしてもらっています。提出〆切があるので時間の管理はしますが。

「積極的な無関心」ってなんですか?

――「積極的な無関心」ってなんですか?

 

迫 たとえば教員の中には熱意のあまり、学生との距離感が近くなりすぎる人がいます。関心が過剰なケースです。指導のつもりでハラスメントになりかねません。逆に無関心すぎると指導することはできません。肯定的でオープンな態度だけど、基本的には相手しだいだと突き放しているみたいなスタンスです。文字にすると冷たい人みたいですが、実際にはたぶんそんな感じはしないと思います。

 

――そうですね。なんか、迫先生は受け入れてくれる感じがあります(笑)

 

迫 関西人なので、学生の無茶ぶりにもこたえます。たいていのことは「まぁ、ええんちゃう?」って感じです。締めないといけないところは締めますが、キッチリとゆったりにもバランスが必要ですよね。広島の人はキッチリ派が多いようなので、僕はゆったりに寄せています。それから、「ちがいは間違いではない」という言葉をモットーにしています。多様性がある方が豊かな社会だと思います。

 

――迫先生が、これから目指すものは何ですか?

 

迫 僕はいつでも、学生とともに学んでいるのだと考えています。ちょっとクサいですが、「研究も教育も完成はない」と思っています。研究テーマは変わるかもしれませんが、答えが簡単に出ないようなことを追求し続けることは、生涯続けて行きたいです。それが学生や社会の人たちの役に立つなら、とても嬉しいことです。

 

――最後に、ゼミを選ぼうとしている学生にひとことお願いします。

 

迫 ゼミでは卒論作成と就職活動の支援がメインになります。卒論テーマに何を書けばいいかと考える人は、「自分は何が楽しいか、あるいは何が解決できたら嬉しいか」を考えてみてください。そこから子どもとか保育につなげたらいいです。実際の雰囲気をつかむのがいいと思いますので、気軽に見学に来てください。歓迎します。

 

――ありがとうございました。

 

迫 こちらこそ。ありがとうございました。

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現在の共同研究テーマ

教育・保育とAIの利活用、児童福祉施設の子どもアドボケイト、保育とマイノリティ、保育の当事者研究、難病患者のプレコンセプション・ケア。

 

各種の保育研修、施設運営の相談などお受けいたします。

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